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電気仕掛けの明日<読み切りショート・ショート/再録>

 

「動いた、動いた!」
 深い闇の中から、呻き声にも似た老人の魂の叫びが轟いた。不快な音響を放ってガチガチと噛み合う無数の歯車の回転に合わせて、九百九十九体めの巨大な自動機械人形が、今、ゆっくりと上半身を持ち上げたのだ。
 その自動人形の単眼に映る老人の影は、両手を翳し、顔いっぱいに口を開け、喜びに満ちてユラユラと蜉蝣のようにゆれていた。その光景を電気的に感じとった人工頭脳は、己が両手をその老人と同じように大きく前に動かした。その反動で、実験室の接続コードやパイプが切れてショートしたり、歯車のいくつかが外れて機械装置が崩壊したりして、雷鳴響く外界の暗黒世界とも相俟て、奇怪で幻想的な神秘の情景を醸し出していた。
「これでワシの夢が叶うのも、もうすぐだ。全財産、全人生を投げ打って没頭してきたワシの実験に終止符が打てるぞ」
 老人の脳裏には、それまで生きてきた光景が走馬灯のように、次々と、映っては消えていた。母親のこと、顔も知らない父親のこと、娘たちのこと、そして、可愛くも美しい孫娘との楽しかったひととき‥‥。科学者としての血の疼きが許さなかった自動人形製造への情熱に賭けた半生――そして今、目の前に結実にした九百九十九人めの息子‥‥。
「‥‥?」
 と、その時、実験台の上に立ちはだかった巨大な黒い鉄の塊が突然、老人めがけて転倒した‥‥!
 ―― 一瞬の空白‥‥‥。
 ―― 一瞬の悪夢‥‥。

 雷雲は散り、外界には冷たい暗黒が天空に無限に広がっていた。シン‥‥と、静まりかえった箱の中は、もはやショートする火花の小さな光が目につくだけになっていた。
 科学者の情熱を受けついだ唯一の息子、九百九十九体め自動機械人形は、無数の螢に散りばめられた巨大都市を目指して、その足音を小さくしていくのだった。そして彼は、一人生き残った彼は、再び暗黒の世界を目指して、都市をさ迷い歩き続けることだろう。

<おわり>

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