ゴリゴリまがじん  
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第1話 へりくつ大作戦

 

「あのインセってヤロウ、なまいきなヤツだな、転校して来たクセに、調子にのりやがって」
 公園のベンチに足を投げ出して、レオパルドが言った。
 春のやわらかな陽ざしの下で、学校帰りの子どもたちが公園に集まって来る。レオパルドたち羽衣小学校の子も、すぐ近くにあるこの公園を利用していた。
「ちょいと、ハデにいためつけてやりましょうか? ヘヘ…」
 チビチビが言った。すると、
「それは最後の手段さ。今はジワジワとオレたちの力を見せつけていくんだよ」
 と菊之助が言って、レオパルドの方を向いた。
「よし!! じゃあ、こうしよう。インセのやつに『パインちゃんが車にひかれて大ケガしたぞ』って言ってやるんだ。あいつ、だまされたとわかって、カーッとなったところを、オレたちが笑いとばす、それで一発殴らせるんだ。そうすりゃ、こっちが手をだしても正当防衛になるってゆうワケさ」
「なるほど、そーでスか。こりゃあイイや。よし! さっそくおいらが言って来まっせ」
 レオパルドの発案を聞いて、チビチビはサッとかけだした。ネズミのように、すばしっこい子分、といったところだ。それにたいし菊之助の方は、ひょろ長く、いつも冷静で、まるでカマキリみたいなヤツだ。
 そして、レオパルドこと河之原レオという人物は、プロレスラーのような、ゴツゴツの体格をした小学生だった。ケンカが強く、戦車のようにがん丈でこのアダ名がついた。
 三人はインセくんをワナにかけようと、動き出した。

 いっぽう、転校一日めを終えたインセくんは、ひとり、かえり道を歩いていた。桜並木が続く通りを、インセくんは、てくてく歩いた。その桜の花のピンク色が、何故か、やたらとまぶしくインセくんには感じられた。
 インセくん――伊勢ツトムくんは、大都市・東京のドまんなかから、郊外の小さな街に引っ越してきたばかりだった。名まえの『伊勢』から『インセ』となったそのニックネームは、本人も割と気に入っていて、さっそく転向先の羽衣小学校でも、そう名のったところだった。
 けれども、まだ一日めで友だちもいない。インセくんは、少し退くつだった。
「んー、ひまだなあ…。なにか起きないかなあ。交通事故でも」
 そこへ、チビチビが大あわてでやって来た。
「 おっ、いたいた!! おーい! インセくーん!! たいへんだァー!!」
「ン? おれ?」
「たいへんだよォ、パインちゃんがよォ、あっちで車にひかれて大ケガしちゃったぞォ」
「ええっ!? 何だって!? あっちでェ?」
 インセくんはチビチビが指さす方へ、急いでかけ出した。パインちゃんというのは、インセくんたち五年一組のまとめ役の、シンのしっかりした女の子だ。きょうも、転校したばかりで何もわからないインセくんに、いろいろとアドバイスをくれた。
(パインちゃん、きょうは黄色い服着て、目立つ格好してるのに……おかしい)
 インセくんは、全力で走っていった。
 チビチビは、そんなインセくんのうしろ姿を、ジッ…と見ていた。

 インセくんは、学校の近くの商店街に来ていた。商店街をぬけた、目の前に、幅の広い道路があって、そこは、車通りのはげしい道だ。インセくんはとりあえず、そこへ向かっていた。
 すると、買い物客でにぎわう人通りのなかに、パインちゃんがいるのを目撃した。事故に遭った、という感じではない。買い物ぶくろとカバンを持って、家に帰る途中だった。
(ははーん、アイツら、オレをだましたつもりだな? よぉし)
 インセくんは、パインちゃんに気づかれないように、反対がわの道へ出た。そして、急いで公園へと向かった。

 公園の入り口近くに、砂場とブランコがあった。レオパルドたち三人は、そのブランコのところに集まって、話をしているところだった。
 三人を見つけたインセくんは、真っ赤な顔をして、そこへかけよって言った。
「おーい、たいへんたいへん、パインちゃんが車にひかれて大ケガしたぞ!!」
 ニヤッ・・・と、不適な笑いをうかべたレオパルドは、「来た来た」と、小声でつぶやいた。
「本当だよ!! 本当にひかれちゃったんだってば」
 そのときとつぜん、どこからともなく救急車のサイレンの音が、聞こえて来た。
  ピーポーピーポー
 チビチビは、ギョッ! とした。
「うへぇ、こりゃあどうも、マジらしいっすよぉ」
 そしてレオパルドも
「よし……行ってみるぞ!!」
 と言って、立ち上がった。すると、ドシッ! と、なにかにぶつかった。
「な、なんだ?」
 見ると、サングラスをかけた、人相の悪いチンピラふうの二人づれの男たちが、レオパルドの目の前に立ちはだかっていた。
 ひとりはボサボサ頭、もうひとりはトゲトゲ頭。さすがのレオパルドも、ビックリぎょう天、どうしていいかわからず、あたふたと するばかりだ。
「おう! テメェ、ケンカ売ってンのかァ? りくつじゃ通じねェぞ」
「あ、いや……そのォ」
 すると、近くで見ていたインセくんが、その二人連れのところへやってきて、ボサボサ頭の方に話しかけた。
「おじさん、おじさん、“ケンカ”って売ってるもんなの? どこのお店に売ってンの? 日本語しらないのォ!?」
 それをきいて、トゲトゲ頭のほうが言った。
「ニャニイ? テメーが日本語しらねーんだろーが!!」
「るせー!! おめぇは口をだすな」
 ボサボサ頭が、トゲトゲ頭をどなりとばした。インセくんは、そこへ割って入って、
「おじさん、口はいつも出てるじゃん。口がなかったら、食べもの、たべらんないよ」
「このヤロウ、へりくつばっかぬかしやがって、世の中はなー!! りくつしか、通じねーんだよ! わかったかッ!!」
「あれ!? おじさん、さっき『りくつじゃ通じねェぞ』とかって言ってたよ。ねぇ、どっちがホントなの?」
「くっそ~、こいつ! ムカつくクソガキが!!」
「ムカ、クツ…? ムカデのクツが、どうしたの?」
「もーガマンできん、たたんじまえ!!」
「あ、けいさつの人だ!」
「ナニッ!?」
 チンピラ二人組みはとっさにあたりを見まわした。が、それらしい人かげは見当たらない。
「あ!! アイツらズラかりやがった」

 チンピラから逃げてきたインセくんは、人通りのすくない交差点に来ていた。そして、そこにある大きな自動はんばい機の前にしゃがみこんで、呟いた。
「ハアハア……、あーおもしろかった!」
 しばらくして、レオパルド、菊之助、チビチビの三人も、そこへやって来た。インセくんは、三人の来るほうを見た。菊之助が、なにか言っている。
「おーい、インセくぅーん、事故だよう!! パインちゃんがはねられたんだ、大ケガなんかじゃないぜー!!」
「もうその手には、のらないよー」
 インセくんは、車通りのない横だん歩道のむこうを、指さした。とおくに黄色い人かげが見えるのが、菊之助たちにもわかった。
「だってパインちゃん あそこにいるもん」

<おわり>

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